12月の新刊:カドミウム・イエローの窓――あるいは絵画の下層《叢書言語の政治》

2019年 12月 17日 コメントは受け付けていません。

カドミウム・イエローの窓カドミウム・イエローの窓
あるいは絵画の下層
叢書《言語の政治》22
ユベール・ダミッシュ(著)
岡本源太+桑田光平+坂口周輔+陶山大一郎+松浦寿夫+横山由季子(訳)

判型:A5判上製
頁数:341頁
定価:4000円+税
ISBN:978-4-8010-0445-0 C0070
装幀:中山銀士
12月下旬発売!

画家にとって、思考するとは何を意味するのだろうか
モンドリアン、デュビュッフェ、クレー、スタインバーグ、アダミ、ルーアンといった作家たちを導きの糸にしながら、二十世紀の美術が依拠してきた理論と歴史の布置を問い直し、その錯綜とした結び目に光を投げかける。バルザック『知られざる傑作』をあつかった「絵画の下層」、ボワにより最良のモンドリアン論として言及された「視線の目覚め」、様式として扱われて来た概念にいちはやく機能としての側面を見出した「アンフォルメル」など、今もなお輝き続ける数々の論考を収録。

 モンドリアンの作品を前にして、われわれは夢想に、また純粋な鑑賞にさえ、身を委ねることはできない。しかし、それは、サルトルがわれわれに認可してくれる感覚的な快楽に加えて、意識の何らかのより内密な働き、定義上割り与えるべき用語のない働きがここで作動し始めるからである。それは、想像の対象を構成することで力尽きてしまうような想像作用とはまったく逆の作用である。知覚がそれに差し出される見るべきものを超え出て、その意味へと向かっていくことが可能であると考えるたびごとに、知覚は最初の経験に、つまり、この白を背景として、またこの黒を図として構成することに躊躇するように知覚を導く経験に、ただちに連れ戻されてしまうことになる。
 タブローは世界とは違って無言ではない。それは何かを語ろうとする。(本文より)



目次

第一章 絵画の下層 
  1 「この下に女性がいる」 
  2 「フレンホーフェル、それは私だ!」 

第Ⅰ部 イメージとタブロー

    ミルクの上のハエである 
第二章 視線の目覚め 
第三章 図像と錯綜態 
    インディアン‼
第四章 テクストへの回帰 

第Ⅱ部 定理

    芸術、今日、注釈 
第五章 アンフォルメル 
第六章 戦略、一九五〇―一九六〇年 

第Ⅲ部 タイトル

    パラジャニの三人のブオパ、あるいは凧揚げの大きな祭り 
第七章 《イコール無限》 
第八章 エヴィデンス・テーブル 
第九章 ロンドンへ向かうS・フロイト 
    デッサンの戦略 
第十章 絵画は真の三である 

原註 
初出一覧 
索引 


訳者あとがき 


著者について
ユベール・ダミッシュ(Hubert Damisch)  
1928年パリに生まれ、2017年パリに没する。哲学者、美術史家。メルロ゠ポンティのもとで哲学を、フランカステルのもとで美術史を学んだ後、パリ社会科学高等研究院(EHESS)で教授を勤めた。主な著書に、『雲の理論――絵画史への試論』(1972年/邦訳、法政大学出版局、2008年)、L’Origine de la perspective (Flammarion, 1987)、『パリスの審判――美と欲望のアルケオロジー』(1992年/邦訳、ありな書房、1998年)、La Ruse du tableau. La peinture ou ce qu’il en reste (Seuil, 2016) などがある。

訳者について
岡本源太(おかもとげんた)
1981年、石川県生まれ。京都大学大学院博士後期課程修了。現在、岡山大学大学院社会文化科学研究科准教授。専攻、美学。主な著書に、『ジョルダーノ・ブルーノの哲学――生の多様性へ』(月曜社、2012年)、主な訳書に、ジョルジョ・アガンベン『事物のしるし――方法について』(共訳、筑摩書房、2011年)などがある。

桑田光平(くわだこうへい)
1974年、広島県生まれ。パリ第四大学博士課程修了。現在、東京大学大学院総合文化研究科准教授。専攻、フランス文学、芸術論。主な著書に、『ロラン・バルト 偶発事へのまなざし』(水声社、2011年)、主な訳書に、ジェラール・マセ『記憶は闇の中での狩りを好む』(水声社、2019年)などがある。

坂口周輔(さかぐちしゅうすけ)  
1980年、神奈川県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得満期退学。現在、法政大学ほか非常勤講師。専攻、フランス文学。主な著書に、『マラルメの現在』(共著、水声社、2013年)、主な論文に、« Tombeau et oubli chez Mallarmé »(『日本フランス語フランス文学会関東支部論集』第二四号所収、2015年)などがある。

陶山大一郎(すやまだいいちろう)
1970年、東京都生まれ。東京外国語大学大学院博士後期課程修了。現在、東京芸術大学ほか非常勤講師。専攻、フランス近代詩・近代美術。主な著書に、『村山知義とクルト・シュヴィッタース』(共著[翻訳]、水声社、2005年)、主な論文に、「タブローとしての詩――ボードレール「窓」における経験の構造」(『表象03』、月曜社、2009年)などがある。

松浦寿夫(まつうらひさお)
1954年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程満期退学。現在、武蔵野美術大学教授。画家、美術批評家。主な著書に、『絵画の準備を!』(共著、朝日出版社、2005年)、主な訳書に、ジャン・クレール『クリムトとピカソ、1907年――裸体と規範』(水声社、2009年)などがある。

横山由季子(よこやまゆきこ)
1984年、香川県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得満期退学。現在、金沢21世紀美術館学芸員。専攻、フランス近代美術、近現代芸術論。主な企画に、「ジャコメッティ展」(国立新美術館、2017年)、「ピエール・ボナール展」(国立新美術館、2018年)、「大岩オスカール 光をめざす旅」展(金沢21世紀美術館、2019年)などがある。

関連書
ドナルド・ジャッド――風景とミニマリズム 荒川徹/3000円+税
クリムトとピカソ、1907年――裸体と規範 ジャン・クレール/松浦寿夫訳/2000円
村山知義とクルト・シュヴィッタース マルク・ダシーほか/2500円+税
絵画との契約――山田正亮再考 松浦寿夫・中林和雄・沢山遼・林道郎/2500円+税
静かに狂う眼差し――現代美術覚書 林道郎/2500円+税
マルセル・デュシャン論 オクタビオ・パス/宮川淳・柳瀬尚紀訳/1500円+税

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