10月の新刊:渋谷実 巨匠にして異端

2020年 10月 21日 コメントは受け付けていません。

渋谷実=カバー.indd渋谷実 巨匠にして異端
志村三代子・角尾宣信(編)
四方田犬彦・河野真理江・具珉婀・紙屋牧子・鳥羽耕史・坂尻昌平・久保豊・長門洋平・川崎公平・深田晃司・小森はるか・金川晋吾・斉藤有吾(著)
熊谷勲・有馬稲子・香川京子・高橋蕗子・高橋志保彦(談)

判型:四六判上製
頁数:554頁
定価:5000円+税
ISBN:978-4-8010-0510-5 C0074
装幀:宗利淳一
10月23日ごろ発売!

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映画よ、いざ最悪の方へ
『自由学校』や『本日休診』で戦後日本の都会風俗を活写するとともに、『現代人』『勲章』『気違い部落』など、人間や時代の深層を軽妙かつ鋭利に、ときに悪辣なまでに風刺する悲喜劇的な作品群を世に問うた渋谷実。
小津安二郎や木下惠介と並ぶ巨匠と見なされた映画監督であったが、その存在は今や忘却の淵に沈みつつある……
混迷を深める現代、細緻な作品分析のもとに今こそ回帰する〈忘れられた巨匠〉の予言的映画美学。

***

本書は、渋谷実という映画史における一つの未踏の空白地帯へと向けた第一歩としてだけでなく、この国の戦争と敗戦後の歩みから現在の私たちの立脚点を再考する契機として、そして、こうした歴史の再検討の上にこそ見晴らしうる私たちの未来へ、それをより良いものにする希望へと向けて、今、世に出された。



目次

序 歴史と私たちを抉り返すために 角尾宣信

渋谷実における群れの認識――詐欺・排除・狂人 四方田犬彦


渋谷実の異常な女性映画――または彼は如何にして慣例に従うのを止めて『母と子』を撮ったか 河野真理江
『本日休診』における「現在」――渋谷実と風俗喜劇 具珉婀
ダークヒーローの誕生――滑稽きわまる人間悲喜劇としての『現代人』 志村三代子
『やっさもっさ』と「講和」――ポスト占領期における男性・女性の闘争 紙屋牧子
無人の荒野へ――『勲章』において蘇る亡霊について 角尾宣信
ルポルタージュを劇映画にするということ――『気違い部落』とその周辺 鳥羽耕史

[コラム]「気違い部落」について 深田晃司
[コラム]懐かしや、渋谷実 熊谷勲


笠智衆と鳥籠――『酔っぱらい天国』を中心に 坂尻昌平
「渋ジイ」が描く女性の老い──『もず』の淡島千景を代表例に 久保豊
渋谷実の音響空間――音の層、あるいは映画的語り手の声をめぐって 長門洋平
切断と相対化の果て――渋谷実作品における意志と共同性 川崎公平
渋谷実の運動空間と男たちの罪と罰――階段、段差、梯子、坂、斜面 角尾宣信

[コラム]15年後に響く音、漂う視線――映画『もず』をみて 小森はるか
[コラム]自分が何を求めているのか。そんなことはわからない。――映画『自由学校』をみて 金川晋吾


語らず/語りえずの渋谷実を語る――熊谷勲氏を囲んで [座談会]熊谷勲・紙屋牧子・坂尻昌平・鷲谷花
忘れられたなんて言わないで、悲しいから 有馬稲子インタビュー
意地悪じいさんに意地悪されたことなんてない 香川京子インタビュー
父・渋谷実の思い出 高橋蕗子・志保彦インタビュー

[コラム]アナタたちを束縛するアナタと私と私たちの自由と平等――『自由学校』について 斉藤有吾

主要参考文献一覧
渋谷実フィルモグラフィ

あとがき 志村三代子


編者・著者・訳者について
志村三代子(しむらみよこ)  
都留文科大学文学部准教授。著書に『淡島千景――女優というプリズム』(共編著、青弓社、2009年)、『映画人・菊池寛』(藤原書店、2013年)、『川島雄三は二度生まれる』(共編著、水声社、2018年)などがある。
角尾宣信(つのおよしのぶ)  
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程在籍。著書に『川島雄三は二度生まれる』(共著、水声社、2018年)、論文に「平面に寝ころぶという記録の仕方――「風俗映画」としての渋谷実『自由学校』と「虚脱」状態の両義性」(『映像学』第101号、2019年)、「占領期前半における風刺の特徴と検閲に対するその抵抗性――『総合風刺雑誌VAN』の分析から」(『Intelligence』第20号、2020年)などがある。

四方田犬彦(よもたいぬひこ)  
比較文学研究者、映画誌家、詩人。明治学院大学教授などを歴任。著書に『無明 内田吐夢』(河出書房新社、2019年)、『映画の領分』(岩波書店、2020年)、『愚行の賦』(講談社、2020年)など多数ある。
河野真理江(こうのまりえ)  
青山学院大学、立教大学、静岡文化芸術大学非常勤講師。著書に『戦後映画の産業空間――資本・娯楽・興行』(共著、森話社、2016年)、『〈ヤミ市〉文化論』(共著、ひつじ書房、2017年)、論文に「「メロドラマ映画」前史――日本におけるメロドラマ概念の伝来、受容、固有化」(『映像学』第104号、2020年)などがある。
具珉婀(ク・ミナ)  
明治学院大学言語文化研究所外国人研究員、国立映画アーカイブ研究補佐員。著書に『川島雄三は二度生まれる』(共著、水声社、2018年)、『偽善への挑戦 映画監督川島雄三』(共著、ワイズ出版、2018年)、論文に“Korean’s Cold War Cosmopolitanism and Asian-Pacific Film Festival”(Asian Cultural Studies, Vol. 49, 2019)(in Korean)などがある。
紙屋牧子(かみやまきこ)  
武蔵野美術大学ほか非常勤講師。著書に『占領下の映画――解放と検閲』(共著、森話社、2009年)、『映画とジェンダー/エスニシティ』(共著、ミネルヴァ書房、2019年)など、論文に「最初期の「皇室映画」に関する考察――隠される/晒される「身体」」(『映像学』第100号、2018年)などがある。
鳥羽耕史(とばこうじ)  
早稲田大学文学学術院教授。著書に『運動体・安部公房』(一葉社、2007年)、『一九五〇年代――「記録」の時代』(河出書房新社、2010年)、『転形期のメディオロジー――一九五〇年代日本の芸術とメディアの再編成』(共編著、森話社、2019年)などがある。
坂尻昌平(さかじりまさひら)  
映画研究者。著書に『ジャック・タチ』(監修・共著、エスクァイアマガジンジャパン、1999年)、『ジャック・タチの映画的宇宙』(監修・共著、エスクァイアマガジンジャパン、2003年)、『淡島千景――女優というプリズム』(共編著、青弓社、2009年)などがある。
久保豊(くぼゆたか)  
金沢大学人間社会学域准教授。著書に『Inside/Out――映像文化とLGBTQ+』(編著、早稲田大学演劇博物館、2020年)、『映画産業史の転換点──経営・継承・メディア戦略』(共著、森話社、2020年)など、論文に“Still Grieving: Mobility and Absence in Post-3/11 Mourning Films”(Journal of Japanese and Korean Cinema, Vol. 11:1, 2019)などがある。
長門洋平(ながとようへい)  
立教大学現代心理学部助教。著書に『映画音響論――溝口健二映画を聴く』(みすず書房、2014年)、『〈ポスト3・11〉メディア言説再考』(共著、法政大学出版局、2019年)、『映画産業史の転換点――経営・継承・メディア戦略』(共著、森話社、2020年)などがある。
川崎公平(かわさきこうへい)  
日本女子大学人間社会学部講師。著書に『黒沢清と〈断続〉の映画』(水声社、2014年)、『映画と文学 交響する想像力』(共著、森話社、2016年)、『川島雄三は二度生まれる』(共編著、水声社、2018年)などがある。

熊谷勲(くまがいいさお)  
映画監督、脚本家。『下町の太陽』(松竹大船、1963年)や『喜劇 女は度胸』(松竹大船、1969年)など、山田洋次や森﨑東の作品で脚本を務めたほか、監督作として『分校日記 イーハトーブの赤い屋根』(富士映画、1978年)、『ゴンタと呼ばれた犬』(学研、1982年)、『ユーパロ谷のドンベース』(北星映画社、1986年)などがある。
有馬稲子(ありまいねこ)  
俳優。代表的な出演作に、『東京暮色』(小津安二郎監督、松竹、1957年)、『夜の鼓』(今井正監督、松竹、1958年)、『人間の條件』第一部・第二部(小林正樹監督、松竹、1959年)、『浪花の恋の物語』(内田吐夢監督、東映、1959年)、『「通夜の客」より わが愛』(五所平之助監督、松竹、1960年)などがある。
香川京子(かがわきょうこ)  
俳優。代表的な出演作に、『おかあさん』(成瀬巳喜男監督、新東宝、1952年)、『東京物語』(小津安二郎監督、松竹、1953年)、『近松物語』(溝口健二監督、大映、1954年)、『どん底』(黒澤明監督、東宝、1957年)、『赤ひげ』(黒澤明監督、東宝、1965年)、『まあだだよ』(黒澤明監督、東宝、1993年)などがある。
高橋蕗子(たかはしふきこ)  
渋谷実の長女。
高橋志保彦(たかはししおひこ)  
建築家、神奈川大学名誉教授。代表作に、開港広場(横浜市、1982年)、仙台一番町ホール(1982-86年)、銀座西並木通り(1989年)、神奈川大学再開発(2002年)、馬車道(横浜市、2003年)などがある。

深田晃司(ふかだこうじ)  
映画監督。代表作に、『歓待』(2011年)、『ほとりの朔子』(2013年)、『淵に立つ』(2016年)、『よこがお』(2019年)など、最新作に『本気のしるし 劇場版』(2020年)がある。
小森はるか(こもりはるか)  
映像作家。代表作に、『息の跡』(2016年)、『空に聞く』(2018年)、『二重のまち/交代地のうたを編む』(瀬尾夏美と共同制作、2019年)などがある。
金川晋吾(かながわしんご)  
写真家。代表作に、写真集『father』(青幻舎、2016年)、個展《長い間》(横浜市民ギャラリーあざみ野、2018年)、《同じ別の生き物》(アンスティチュ・フランセ、2019年)などがある。
斉藤有吾(さいとうゆうご)  
アーティスト集団「CANCER」所属。代表作に、《10-36 ~10-34sec》(コーディネート、Nam Gallery、2015年)、《「差別」を前程に、「偏見」から始めましょう》(企画、Nam Gallery、2015年)、《斉藤有吾の斉藤有吾による斉藤有吾のためのCANCER展》(企画、BAR星男、2018年)などがある。

関連書
川島雄三は二度生まれる/川崎公平・北村匡平・志村三代子編/3200円+税
リメイク映画の創造力/北村匡平・志村三代子編/3200円+税
黒沢清と〈断続〉の映画/川崎公平/5000円+税
フライシャー兄弟の映像的志向――混淆するアニメーションとその空間/宮本裕子/4000円+税

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