6月の新刊:ジョージ・オーウェル『一九八四年』を読む——ディストピアからポスト・トゥルースまで
2021年 5月 24日 コメントは受け付けていません。
ジョージ・オーウェル『一九八四年』を読む
ディストピアからポスト・トゥルースまで
《水声文庫》
秦邦生(編)
判型:四六判上製
頁数:314頁
定価:3000円+税
ISBN:978-4-8010-0574-7 C0098
装幀:宗利淳一
6月上旬発売!
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ディストピアに希望を探れ
文学という枠を越え出て、政治や社会のあり方、あるいは日常生活の襞にいたるまで、今やあらゆる領域へと越境し増殖を続ける『一九八四年』の世界。
動物、ジェンダー、情動、〈ポスト真実〉やポピュリズムといった多様な観点からの精読や、受容史やアダプテーションなど関連作品の分析を通してこの文学的事件の真価を問う、今と未来を生き延びるための『一九八四年』読解。
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本論集はオーウェルの『一九八四年』を「古典」と「ディストピア」との交錯点で読みなおす試みである。……この小説を古典として読むとき、私たちは一方でその濃密なテクスト性に精読を施しつつ、他方ではそれが潜り抜けてきた受容史の錯綜を丁寧に解きほぐさねばならない。この小説をディストピアとして読むとき、私たちはそこに悪夢の世界を突き抜けるユートピア的批判精神の脈動を触知せねばならない。精読と歴史化の二重の作業によって、『一九八四年』を読みなおす現代的意義を再定義すること――これが本論集の狙いである。
(「序 『一九八四年』をあらためて読むために」より)
【目次】
序 『一九八四年』をあらためて読むために 秦邦生
ジョージ・オーウェル――いくつかの個人的なつながり
マーガレット・アトウッド/西あゆみ 訳
「普通の人びと」への希望――『一九八四年』とポピュリズム
星野真志
家父長制批判としての『一九八四年』?
中村麻美
抵抗についての注釈
ジャン゠フランソワ・リオタール/郷原佳以 訳
『一九八四年』における愛と情動
小川公代
鳥とネズミのあいだ――『一九八四年』における「人間らしさ」と動物たち
秦邦生
日本における『一九八四年』の初期受容
川端康雄
改竄される『一九八四年』――冷戦初期の映像三作品と原作、そしてオーディエンス
渡辺愛子
舞台化された『一九八四年』――三つの脚本
小田島創志
ポスト・トゥルースの時代のオーウェル――カクタニとローティによる読解
髙村峰生
オーウェルからアトウッドへ――「フェミニスト・ディストピア」が描く未来への希望
加藤めぐみ
[コラム]
オーウェルと「ディストピア」の先達たち 秦邦生
「ニュースピーク」と「ベイシック英語」 川端康雄
フランスにおけるオーウェル『一九八四年』の受容 伊達聖伸
アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』と『一九八五年』 星野真志
定点としての一九八四年と『一九八四年』の時空 渡辺愛子
ブアレム・サンサール『二〇八四年――世界の終わり』 伊達聖伸
現代アメリカの風刺ディストピア小説 吉田恭子
翻訳者の雑感、もしくは妄言 高橋和久
文献案内――〈あとがき〉に代えて 秦邦生
【編者・執筆者・訳者について】
秦邦生(しんくにお)
1976年生まれ。東京大学大学院准教授。イギリス文学。著書に、『イギリス文学と映画』(共編著、三修社、2019年)、『カズオ・イシグロと日本――幽霊から戦争責任まで』(共編著、水声社、2020年)、論文に、“The Uncanny Golden Country: Late-Modernist Utopia in Nineteen Eighty-Four”(Modernism/Modernity Print Plus. 2. 2, 2017)などがある。
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マーガレット・アトウッド(Margaret Eleanor Atwood)
1939年生まれ。カナダの小説家・詩人。著書に、『侍女の物語』(1985年/邦訳=新潮社、1990年)、『昏き目の暗殺者』(2000年/邦訳=早川書房、2005年)、『洪水の年』(2009年/邦訳=岩波書店、2018年)、『誓願』(2019年/邦訳=早川書房、2020年)などがある。
星野真志(ほしのまさし)
1988年生まれ。日本学術振興会海外特別研究員(University College London)。イギリス文学。論文に、“Humphrey Jennings’s ‘Film Fables’: Democracy and Image in The Silent Village”(Modernist Cultures, vol. 15, issue 2, 2020)、訳書に、ナオミ・クライン『楽園をめぐる闘い――災害資本主義者に立ち向かうプエルトリコ』(堀之内出版、2019年)、オーウェン・ハサリー『緊縮ノスタルジア』(共訳、堀之内出版、2021年)などがある。
中村麻美(なかむらあさみ)
立教大学助教。イギリス文学、ユートピア・ディストピア文学。論文に、“Nostalgia as a Means of Oppression, Resistance and Submission: A Study of Dystopian and Homecoming Novels”(Ph.D. Dissertation, University of Liverpool, 2017)、“On the Uses of Nostalgia in Kazuo Ishiguro’s Never Let Me Go”(Science Fiction Studies, vol. 48, no. 1, 2021)などがある。
ジャン゠フランソワ・リオタール(Jean-François Lyotard)
1924-1998年。フランスの哲学者。著書に、『言説、形象(ディスクール、フィギュール)』(1971年/邦訳=法政大学出版局、2011年)、『ポストモダンの条件――知・社会・言語ゲーム』(1979年/邦訳=水声社、1986年)、『文の抗争』(1983年/邦訳=法政大学出版局、1989年)、『非人間的なもの──時間についての講話』(1988年/邦訳=法政大学出版局、2002年)などがある。
小川公代(おがわきみよ)
1972年生まれ。上智大学教授。ロマン主義文学、医学史。著書に、『幻想と怪奇の英文学Ⅳ 変幻自在編』(共著、春風社、2020年)、Johnson in Japan(共編著、Bucknell University Press, 2020)、訳書に、サンダー・L・ギルマン『肥満男子の身体表象――アウグスティヌスからベーブ・ルースまで』(共訳、法政大学出版局、2020年)などがある。
川端康雄(かわばたやすお)
1955年生まれ。日本女子大学教授。イギリス文学。著書に、『葉蘭をめぐる冒険――イギリス文化・文学論』(みすず書房、2013年)、『オーウェルのマザー・グース――歌の力、語りの力』(平凡社選書、1998年。増補版、岩波現代文庫、2021年)、『ジョージ・オーウェル――「人間らしさ」への讃歌』(岩波新書、2020年)などがある。
渡辺愛子(わたなべあいこ)
早稲田大学教授。現代イギリス地域研究。著書に、『英国ミドルブラウ文化研究の挑戦』(共著、中央大学出版部、2018年)、論文に、“The Politics of Exhibiting Fine Art in the Soviet Union: the British Council’s Activities 1955-1960”(The East Asian Journal of British History, vol. 4, 2014)、訳書に、リチャード・J・エヴァンズ『エリック・ホブズボーム――歴史の中の人生』(共訳、岩波書店、近刊)などがある。
小田島創志(おだしまそうし)
1991年生まれ。お茶の水女子大学ほか非常勤講師。現代イギリス演劇。戯曲翻訳に、ラジヴ・ジョセフ作『タージマハルの衛兵』(『悲劇喜劇』2020年1月号、早川書房)、ダイアナ・ンナカ・アトゥオナ作『リベリアン・ガール』(『紛争地域から生まれた演劇』第11巻、国際演劇協会、2020年)、論文に、「StoppardとHare――20世紀末の“Oscar Wilde”」(『リーディング』第37巻、東京大学大学院英文学研究会、2017年)などがある。
髙村峰生(たかむらみねお)
1978年生まれ。関西学院大学教授。アメリカ文学・比較文学。著書に、『文学理論をひらく』(共著、北樹出版、2014年)、『触れることのモダニティ――ロレンス・スティーグリッツ・ベンヤミン・メルロ゠ポンティ』(以文社、2017年)、『接続された身体のメランコリー――〈フェイク〉と〈喪失〉の21世紀英米文化』(青土社、2021年)などがある。
加藤めぐみ(かとうめぐみ)
1967年生まれ。都留文科大学教授。イギリス文学・文化。著書に、『終わらないフェミニズム――「働く」女たちの言葉と欲望』(共著、研究社、2016年)、『英国ミドルブラウ文化研究の挑戦』(共著、中央大学出版部、2018年)、『カズオ・イシグロと日本――幽霊から戦争責任まで』(共著、水声社、2020年)などがある。
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伊達聖伸(だてきよのぶ)
1975年生まれ。東京大学大学院准教授。宗教学、フランス語圏地域研究。著書に、『ライシテから読む現代フランス――政治と宗教のいま』(岩波新書、2018年)、『ヨーロッパの世俗と宗教――近世から現代まで』(編著、勁草書房、2020年)、訳書に、フランソワ・オスト『ヴェールを被ったアンティゴネー』(小鳥遊書房、2019年)などがある。
吉田恭子(よしだきょうこ)
1969年生まれ。立命館大学教授。アメリカ文学。著書に、『精読という迷宮――アメリカ文学のメタリーディング』(共著、松籟社、2019年)、『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』(共著、書肆侃侃房、2020年)、訳書に、デイヴ・エガーズ『ザ・サークル』(早川書房、2014年)などがある。
高橋和久(たかはしかずひさ)
1950年生まれ。東京大学高大接続研究開発センター特任教授。英文学。著書に、『二〇世紀「英国」小説の展開』(共編著、松柏社、2020年)、訳書に、ジョージ・オーウェル『一九八四年』(ハヤカワepi文庫、2009年)、ジョゼフ・コンラッド『シークレット・エージェント』(光文社古典新訳文庫、2019年)などがある。
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西あゆみ(にしあゆみ)
1990年生まれ。一橋大学大学院言語社会研究科博士後期課程在籍。英語圏文学。論文に、“Body, Race and Place in Zoë Wicomb’s Playing in the Light”(『言語社会』第13号、2019年)などがある。
郷原佳以(ごうはらかい)
1975年生まれ。東京大学大学院准教授。フランス文学。著書に、『文学のミニマル・イメージ――モーリス・ブランショ論』(左右社、2011年)、『洞窟の経験――ラスコー壁画とイメージの起源をめぐって』(共著、水声社、2020年)、訳書に、ブリュノ・クレマン『垂直の声』(水声社、2016年)などがある。
【関連書】
カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を読む――ケアからホロコーストまで/田尻芳樹・三村尚央編/3000円+税
カズオ・イシグロと日本――幽霊から戦争責任まで/田尻芳樹・秦邦生編/3000円+税
カズオ・イシグロ 失われたものへの再訪――記憶・トラウマ・ノスタルジア/ヴォイチェフ・ドゥロンク/3500円+税
鉤十字の夜/キャサリン・バーデキン/2500円+税