編集部通信/パリの読書界の話題をさらった「手紙」、まもなく刊行!
2010年 10月 9日 コメントは受け付けていません。
君はもうすぐ82歳になる。身長は6センチも縮み、
体重は45キロしかない。それでも変わらず美しく、優雅で、
いとおしい。僕たちは一緒に暮らし始めて58年になる、
しかし今ほど君を愛したことはない。僕の胸のここには
ぽっかりと穴が空いていて、僕に寄り添ってくれる
君の温かい身体だけがそれを埋めてくれる——。
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日本ではあまり知られていませんが、
ジャン=ポール・サルトルが
「ヨーロッパで最も鋭い知性」と
評した哲学者/経済ジャーナリスト/
エコロジストのアンドレ・ゴルツが、
2007年9月22日、パリ近郊の
ヴォスノン村の自宅で、長年連れ添った
不治の病の妻とともに自ら人生の幕を閉じました。
ふたりは手を取り合って亡くなっていたのですが、
スキャンダル扱いされることはなく、
その一年前に刊行された
話題作 Lettre à D.(Dへの手紙)が
俄然また注目を浴びることになったのです。
小社刊行予定の『また君に恋をした』はその邦訳版で、
83歳の哲学者アンドレ・ゴルツが、人生を共に歩んだ妻への
オマージュ、感謝の気持ちをこめて書き上げた
「最後のラブレター」であり、「究極の愛の物語」です。
冒頭に引用した美しい文章ではじまり、「僕たちは二人とも、
どちらかが先に死んだら、その先を生き延びたくはない……」という言葉で
締めくくられる本書は、妻への愛惜の情に満ちた語りと
哲学的モノローグが交錯する、きわめて短い作品ですが、
二人の58年間にわたる愛の歴史がずしんと胸に迫ってきて、
読後の余韻がなかなか消えませんでした。
今から18年前にパリ近郊の田舎の家にゴルツ夫妻を
訪れたことのある杉村裕史氏が、
追悼の想いをこめて翻訳した『また君に恋をした』は、
10月下旬に発売予定。四六判変形上製/144頁という、
ちょっと小さめの瀟洒な本で、定価も1500円(税抜)と
お求めやすくなっていますので、
ぜひ本屋さんでご覧になってみてください。(編集部So)
写真: 若き日のゴルツ夫妻、セーヌ河畔にて。(c)éditions Galilée