3月の新刊:ホロコーストとナクバ――歴史とトラウマについての新たな話法
2023年 3月 1日 コメントは受け付けていません。
ホロコーストとナクバ
歴史とトラウマについての新たな話法
バシール・バシール+アモス・ゴールドバーグ(編)
小森謙一郎(訳)
判型:A5判上製
頁数:476頁
定価:6000円+税
ISBN:978-4-8010-0703-1 C0022
装幀:宗利淳一
3月上旬発売!
「一つの歴史、一つの問題」
未曾有のユダヤ人絶滅政策、〈ホロコースト〉と、今なお終わらないパレスチナ人への迫害、〈ナクバ〉。
もしそれらが連続した一つの出来事だとしたら?
2011年、故郷喪失の追悼行事を封じ込める「ナクバ法」がイスラエルで成立した。
ユダヤ人迫害を背景に建国されたイスラエルと、それゆえに郷土を破壊され奪われたパレスチナ人の間には、いかなる共存の未来も存在しないのか──そして過去については?
ユダヤ人とアラブ人双方の学者・作家19名が協同し、ユダヤ・中東史の深層を読み解きながら、政治的・歴史的分断を超えて語るための新たな〈話法〉を探求する。
【目次】
序文 エリヤース・フーリー
[イントロダクション]
ホロコーストとナクバ――歴史、記憶、政治的考察のための新たな語法 バシール・バシール+アモス・ゴールドバーグ
第1部 ホロコーストとナクバ――新たな政治的・歴史的語法を可能にする諸条件
第1章 ユダヤ人とパレスチナ人を襲った災厄の前触れ――ヨーロッパの国民国家建設とその有害な遺産 一九一二―一九四八年 マーク・レヴィーン
第2章 ムスリムたち(ショアー、ナクバ) ギル・アニジャール
第3章 ベンヤミン、ホロコースト、そしてパレスチナ問題 アムノン・ラツ゠クラコツキン
第4章 ヤッファがヤーファ(ジャッファ)に出会ったとき――シオニズムの影で交差するホロコーストとナクバ ホナイーダ・ガーニム
第5章 ホロコースト/ナクバと記憶をめぐる対抗的公共圏 ナディーム・フーリー
第2部 ホロコーストとナクバ――歴史とカウンターヒストリー
第6章 コワルスキー夫妻が歴史に挑戦したとき――ジャッファ、一九四九年 ホロコーストとナクバのあいだ アロン・コンフィノ
第7章 荒れ狂う波に向けて上げた大胆な声――パレスチナ人知識人ナジャーティー・スィドキーと第二次世界大戦時のナチの教義に対するその闘い ムスタファー・カブハ
第8章 追放とはどのようなものか? ――ショアーとナクバの連関における変容 ヨヒ・フィッシャー
第9章 苦しみと被害者意識についての民族的ナラティヴ――個人的な政治史として過去を語る方法と倫理 オメル・バルトフ
第3部 ホロコーストとナクバ――トラウマ的シニフィアンの展開
第10章 記憶の文化――レア・グルンディヒとアベド・アーブディーの作品におけるホロコーストとナクバのイメージ タル・ベン゠ツヴィ
第11章 マアバラ――ショアーとナクバのあいだのミズラヒーム オムリ・ベン゠イェフダ
第12章 復讐から共感へ――ユダヤ人の破滅からパレスチナ人の破滅までのアッバ・コヴナー ハナン・ヘーヴァー
第4部 エリヤース・フーリー『ゲットーの子供たち――わが名はアダム』について――ホロコーストとともにナクバを語る
第13章 対位法的読解としての小説――エリヤース・フーリーの『ゲットーの子供たち――わが名はアダム』 レフカ・アブー゠レマイレ
第14章 沈黙を書くこと――フーリーの小説『ゲットーの子供たち――わが名はアダム』を読む ラーイフ・ズライク
第15章 焼けるようなトタン屋根の上の沈黙――翻訳者の視点から見た『ゲットーの子供たち』 イェフダ・シェンハヴ
[後書き]ホロコーストとナクバ ジャクリーヌ・ローズ
[訳者解題]新たな人文学の地平に向けて 小森謙一郎
参考文献
索引
【編者・執筆者について】
バシール・バシール(Bashir Bashir)
イスラエル・オープン大学政治理論准教授、ヴァン・レール・エルサレム研究所上級研究員。主な研究テーマは、ナショナリズムとシティズンシップ研究、多文化主義、民主主義理論、和解の政治学など。
アモス・ゴールドバーグ(Amos Goldberg)
エルサレム・ヘブライ大学教授。ホロコースト研究・教育に従事。主な研究テーマは、ホロコーストにおけるユダヤ人の文化史、ホロコーストの歴史記述、グローバルな世界におけるホロコーストの記憶など。
*
エリヤース・フーリー(Elias Khoury)
レバノン出身の小説家、文芸評論家、学者。『パレスチナ研究ジャーナル』編集者。ニューヨーク大学、レバノン・アメリカン大学、レバノン大学などで教鞭をとる。15冊の小説と4冊の文芸批評を発表、小説は15の言語に翻訳されている。
マーク・レヴィーン(Mark Levene)
サウサンプトン大学歴史学名誉フェロー。ジェノサイド、ユダヤ史、環境・平和問題、とくに人為的要因による気候変動など、幅広い分野で執筆活動を行なう。
ギル・アニジャール(Gil Anidjar)
コロンビア大学教授。宗教学部及び中東・南アジア・アフリカ研究学部で教鞭をとる。主な研究テーマは、ユダヤ人とアラブ人、政治神学、人種と宗教、ヨーロッパ哲学など。
アムノン・ラツ゠クラコツキン(Amnon Raz-Krakotzkin)
ネゲヴのベン゠グリオン大学ユダヤ史学部で教鞭をとる。ヴァン・レール・エルサレム研究所研究員。近世におけるキリスト教徒とユダヤ人の言説、シオニストの歴史意識を研究。
ホナイーダ・ガーニム(Honaida Ghanim)
パレスチナ出身の社会学者・人類学者。専攻は、政治社会学、文化社会学、ジェンダー研究。2009年からMADAR Strategic Reportの編集長。
ナディーム・フーリー(Nadim Khoury)
インランドノルウェー応用科学大学法学・哲学・国際研究学部准教授。主な研究テーマは、政治理論史、ナショナリズム、記憶の政治学など。
アロン・コンフィノ(Alon Confino)
マサチューセッツ大学アマースト校歴史学・ユダヤ研究教授、ホロコースト研究ペン・ティシュカハ講座議長。同校ホロコースト・ジェノサイド・記憶研究所所長。
ムスタファー・カブハ(Mustafa Kabha)
イスラエル・オープン大学歴史・哲学・ユダヤ研究学部教授、ユダヤ人・キリスト教徒・ムスリム関係研究センター長。
ヨヒ・フィッシャー(Yochi Fischer)
歴史家、ヴァン・レール・エルサレム研究所副所長。ヒューマニズム、反ユダヤ主義、反イスラーム感情に関する同研究所共同プロジェクトのリーダー。研究テーマは、宗教と世俗化、記憶と表象の問題など。
オメル・バルトフ(Omer Bartov)
ブラウン大学ジョン・P・バークランド特別教授。専攻は、ヨーロッパ史。「イスラエル・パレスチナ──土地と人々」プロジェクトを主宰。
タル・ベン゠ツヴィ(Tal Ben-Zvi)
イスラエル・パレスチナ芸術のキュレーター、研究者。エルサレムのベツァルエル美術デザイン学院副校長、テル゠アヴィヴのキブツィム教育大学芸術学部学部長を歴任。
オムリ・ベン゠イェフダ(Omri Ben-Yehuda)
ベルリン地域横断研究フォーラムEUMEアソシエイトフェロー。ヴァン・レール・エルサレム研究所「ガザ──イスラエルのヘテロトピア的景観に向けて」研究班代表。カフカ、ミズラヒー文学、アグノン、ビアリクに関する論考を多数発表。
ハナン・ヘーヴァー(Hannan Hever)
イェール大学ジェイコブ&ヒルダ・ブラウシュタイン教授。専攻は、比較文学、ヘブライ語・ヘブライ文学。ヘブライ大学名誉教授。近現代ヘブライ文学・文化、文学理論・文化理論について、ポストナショナル的・ポストコロニアル的観点から論じている。
レフカ・アブー゠レマイレ(Refqa Abu-Remaileh)
ベルリン自由大学准教授。専攻は、現代アラビア文学、映画。ERCプロジェクトPalREAD「1948年から現在までのパレスチナ文学の読解と受容」リーダー。
ラーイフ・ズライク(Raef Zreik)
テル゠アヴィヴ大学ミネルヴァ人文学センター共同学術主幹、オノ・アカデミック・カレッジ准教授。ヴァン・レール・エルサレム研究所上級研究員。研究テーマは、法学・政治学理論、シティズンシップとアイデンティティ、法解釈など。
イェフダ・シェンハヴ(Yehouda Shenhav)
テル゠アヴィヴ大学社会学部教授、ナント高等研究所の科学委員会メンバー。ヴァン・レール研究所でアラビア語からヘブライ語への翻訳物を出版するMaktoobの編集長を務める。
ジャクリーヌ・ローズ(Jacqueline Rose)
ロンドン大学人文学教授、同バークベック人文学研究所共同所長。英国学士院フェロー。英国における「独立ユダヤ人の声」共同設立者。
【訳者について】
小森謙一郎(こもりけんいちろう)
武蔵大学人文学部教授。専攻は、ヨーロッパ思想史。著書に『アーレント 最後の言葉』(講談社選書メチエ、2017年)、『デリダの政治経済学』(御茶の水書房、2004年)、編著に『人文学のレッスン』(共編、水声社、2022年)、訳書にイェルシャルミ『フロイトのモーセ』(岩波書店、2014年)などがある。