4月の新刊:『言語と狂気』
2014年 7月 30日 コメントは受け付けていません。
言語と狂気――シュレーバーと世紀転換期ドイツ
熊谷哲哉
A5判上製/312頁/定価=4500円+税
装幀=齊藤久美子
978-4-8010-0037-7 C0010 好評発売中
精神の韻律を読むための
言語による抵抗
フロイト、ラカンの精神医学、キットラーのメディア論、心霊科学、進化思想など、多領域へと接続するシュレーバー『回想録』の「根源言語」の現代的意義を問う。自己/他者、意味/無意味、雑音/音楽を聴取する、シュレーバーによる神経言語の試みを解き明かす。
「シュレーバーにおける知覚ないし精神活動とは、とりもなおさず彼の世界にあふれる言葉である。見られ、聞き取られ、考えられたものごとは、すべて神経に書き込み可能な情報として言葉へと変換可能なものが、神経に感じ取られるのである。…ゆえに神経とは、『回想録』に遍在する言葉と、痛みや病気とともに、自分ひとりの感覚として腐敗や死を受け入れなければならない身体という成立した概念が交差し、せめぎあう場所なのである。この場所こそ、シュレーバーが死者の魂となることも、腐敗した死体となることもなく、時空を超えた現象を知覚し、生と死、この世とあの世の境目を生きる人間として見出した結び目だったのである。」(本文より)
【目次】
はじめに
序章 ダニエル・パウル・シュレーバーと『ある神経病者の回想録』
一、シュレーバーとその一族
二、『ある神経病者の回想録』という本について
三、シュレーバーの『回想録』はどのように読まれてきたか
四、本書の構成
第一章 言語をめぐるたたかい――録音再生装置と雑音の世界
一、雑音
二、抵抗
三、ピアノの破壊、あるいは雑音と音楽が交差するところ
四、音楽と雑音、そして言葉だらけの世界
第二章 光線としての言葉――世界の可視化への欲求
一、『回想録』の出版と「科学的」心霊主義の時代
二、光線とシュレーバーの知的背景
三、光線と図像化される世界
四、可視化される魂の活動
五、外部と内部、あるいは可視化された世界をつなぐ光
六、不可知の領域の発見
第三章 神経と宇宙――カール・デュ・プレルとシュレーバー
一、シュレーバーにおける神経
二、神経と宇宙
三、カール・デュ・プレルの宇宙論とシュレーバー
四、結び目としての神経
第四章 教育者と医者――「魂の殺害」と迫害体験
一、魂の殺害とは
二、迫害者とは父親か――モーリツ・シュレーバー批判と実像
三、もう一人の迫害者、フレックシヒ
四、『回想録』におけるフレックシヒと魂の殺害
第五章 「脱男性化」とは何か
一、「脱男性化」するシュレーバー
二、脱男性化はどう考えられてきたか
三、人体計測者たちの不安と性の動揺
四、生殖と脱男性化
五、腐敗としての脱男性化
第六章 「神経言語」と言語危機の時代
一、言語としての「神経言語」
二、「神経芸術」と言語の危機
三、フロイトにおける空想の問題
四、シュレーバーにおける「書くこと」
第七章 目的・進化・自由意志――神と自然をどう捉えるか
一、シュレーバーにおける宗教的な問題
二、シュレーバーと進化論的世界認識
三、自然発生と自由意志
四、自己意識と隙間に現れる神
終章 シュレーバーと神、そして新たな人類
一、各章のまとめ
二、神とシュレーバーの関係はどう変化したか
三、世界の収束と新たな人類
四、言語と狂気――シュレーバーの言語をめぐる思考と世紀転換期ドイツ
註
参考文献
索引
あとがき
【著者】
熊谷哲哉(くまがいてつや) 1976年、栃木県生まれ。明治大学文学部文学科卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。専攻、近現代ドイツ文学、ドイツ文化論。現在、京都大学、近畿大学等非常勤講師。著書に『携帯&スマホでドイツ語』(共著、郁文堂、2014年)、『芸術教養シリーズ14 西洋の芸術史 文学上演篇Ⅱ ロマン主義の胎動から世紀末まで』(共著、幻冬舎、2014年)などがある。