2月の新刊:『ベケットのアイルランド』
2014年 7月 30日 コメントは受け付けていません。
ベケットのアイルランド
川島健
A5判上製/272頁/定価=4000円+税
ISBN978-4-8010-0014-8 C0098 好評発売中
装幀=齋藤久美子
《ベケットにとってアイルランドは常に戦いの場であった》
ベケット作品において繰り返し描かれる果てなき彷徨、そして逡巡。その原点は故郷アイルランドにあった。様々な信条とイデオロギーが交錯する場、誰のものでもなく、したがって誰のものにもなりえる空間=「無人地帯」をキーワードに、初期作品群に刻まれたアイルランドの相貌の変化を追う。
《本書の目的はベケットのテクストを、アイルランドをめぐる様々な言説の中に位置づけ分析することである。青年から中年へと歳を重ねるベケットの軌跡と20世紀前半のアイルランドの歴史を交錯させるとき、そこに浮かび上がるアイルランドは確固たる対象としては現れない。時と場所の変化が同じものの異なる側面を提示するように、ベケットの描くアイルランドも刻々と変化する。ベケットのアイルランドの相貌の変化を写しとり、現実のアイルランドの変化に重ねあわせることが本書の方法である》(序章より)
【目次】
序章
はじめに
アイルランド英語のポリティックス
イェイツの民族主義批判
無人地帯
第一部 ダブリン
第一章 境界線の女たち
ベケットの女たち
娼婦たちのダブリン
膿だらけの街――「愁嘆の詩 Ⅰ」
都市という身体――「血膿 Ⅰ」と「夕べの歌 Ⅲ」
公的空間と私的空間
第二章 越境するクーフリン
『マーフィー』のアイルランド
ダブリンのパブリックアート
クーフリン像とイェイツ
ダブリン中央郵便局
四肢硬直のクーフリン
ロイヤルパークの夜
国家を語る擬人法
第二部 言葉の場所
第三章 ダンテ、ジョイスについて語るということ
モダニズムの言葉
ダンテの「高貴な俗語」
「わたしたち」の言葉
文語としての俗語
言葉の帰属
ジョイスを語るということ
詩的言語の場所
第四章 翻訳の不協和音
翻訳されなかった言葉
言葉の無能な使い手
“He War”
不協和音
言葉への二重の背き
第五章 本当の名前と翻訳可能性
ベケットと命名
「薔薇」と「薔薇」
「タイプ」と「名前」
「ディーダラス」と「ダイダロス」
「罪」と「罰」
「敬虔」と「憐憫」
「ベラックワ」と「ベラックワ」
第三部 どこでもない場所
第六章 アイルランドを描くこと
アイルランドの国民文学
プルーストの統一性
オケイシーの本質と二次的要素
イメージの詩学――ジャック・B・イェイツの小説
小さな国の芸術――ジャック・B・イェイツの絵画
Nowhere
第七章 廃墟の存在論
廃墟
リュテス闘技場
ルシヨン
サン・ロー
仏語へ
人間の条件
「わたしたち」と「彼ら」
「わたし」と「わたしたち」
終章
註/サミュエル・ベケット年表/あとがき
【著者について】
川島健(かわしまたけし) 1969年、東京都生まれ。東京大学大学院にて博士号取得。ロンドン大学ゴールドミス校にてMPhil取得。現在、広島大学准教授。専攻、英文学、演劇学、比較文学。
主な著書に、『サミュエル・ベケット!』(共編著、水声社、2012年)、『ベケットを見る八つの方法』(共編著、水声社、2013年)、訳書にジェイムズ&エリザベス・ノウルソン『ベケット証言録』(共訳、白水社、2008年)などがある。
【関連書】[価格税別]
ベケットを見る八つの方法――批評のボーダレス 岡室美奈子・川島健編 4500円
サミュエル・ベケット!――これからの批評 岡室美奈子・川島健・長島確編 3800円
ベケット――果てしなき欲望 アラン・バディウ 西村和泉訳 2000円