7月の新刊:ノースフェーラ――惑星現象としての科学的思考《叢書・二十世紀ロシア文化史再考》
2017年 7月 11日 コメントは受け付けていません。
ノースフェーラ
惑星現象としての科学的思考
《叢書・二十世紀ロシア文化史再考》
ヴラジーミル・ヴェルナツキイ(著)
梶雅範(訳)
判型:四六判上製
頁数:442頁
定価:4500円+税
ISBN:978-4-8010-0274-6 C0044
装幀:中山銀士
7月17日頃発売!
科学的思考と人間の労働の影響の下に、生物圏は、叡知圏(ノースフェーラ)という新たな状態に移行しようとしている――
現代環境思想にも通じる独自の地球観を展開した、地質学者ヴェルナツキイの著作を本邦初紹介。人類の科学的知識の増大を惑星地球の「進化」と位置づけ、人間思考の発展の歴史を辿りながら、生命と非生命のダイナミックな交流に着目した、新たな学問領域「生物地球化学」をうち立てる。
人間理性への信頼がゆらぐ第二次世界大戦前夜、人類の未来への希望を科学研究の絶え間ない営為の中に見出した、ヴェルナツキイの思想的到達点。
【目次】
第一部 生物圏における地質学的力としての科学的思考と科学研究
第一章(1‐13節)
生物圏の生命物質の合法則的な部分およびその組織化の一部としての、生物圏における人間ならびに人類。生物圏の物理・化学的および幾何学的な多様性、すなわち生物圏の生命物質と非生命物質の根本的な組織化上の(物質的・エネルギー的および時間的)違い。種の進化と生物圏の進化。生物圏における新たな地質学的な力の出現、すなわち社会的人類の科学的思考の出現。その現れは、われわれが生きている氷河時代とつながる、すなわち地球史において繰り返される(故あって地殻の領域を越える)地質学的諸発現の一つとつながりがある。
第二章(14‐46節)
体験されていく歴史的瞬間が地質学的過程として立ち現れること。生命物質の種の進化と生物圏の叡知圏への進化。この進化は、人類の世界史の歩みによっては止められない。科学的思考とその現れとしての人類の生活様式。
第三章(47‐65節)
二十世紀の科学的思考の運動と生物圏の地質学史における意義。科学的思考の運動の基本的な特徴――科学的創造の爆発、現実世界の基礎についての理解の変化、科学の普遍性と科学の作用の現れおよび科学の社会的な現れ。
第二部 科学的真理について
第四章(66‐74節)
現在の国家体制下での科学の状態。
第五章(75‐93節)
正しく導かれた科学的な真理は、あらゆる人間個人にとって、あらゆる哲学にとって、あらゆる宗教にとって揺るぎなく不可避であること。しっかり管理されたもとであれば、科学が達成した成果は、誰にも適用される普遍的なものであることが、科学が哲学や宗教とは違う基本的な特質である。哲学や宗教の結論というものは、そのようにだれにでもそうあらねばならないということはない。
第三部 新たな科学的知識と生物圏から叡知圏への移行
第六章(94‐99節)
二十世紀の新たな問題、すなわち新科学。生物地球化学、その生物圏との切れ目ないつながり。
第七章(100‐119節)
叡知圏の現れとしての科学的知識の構造、科学的知識によって引き起こされた生物圏の地質学的に新しい状態、ホモ・サピエンスの地球での出現の歴史的過程(それは、ホモ・サピエンスによる生物地球化学的エネルギーの新しい形態とそれにかかわる叡知圏の創造による)。
第四部 科学的な知識体系における生命科学
第八章(120‐127節)
生命は現実世界の永続的な現象なのか、あるいは一時的な現象なのか。生物圏の自然物は、生命物質と非生命物質である。生物圏の複合自然物は、生命物質と非生命物質の複合体である。そこでは生命物質と非生命物質との境界は侵されていない。
第九章(128‐142節)
生物圏の生命自然物質と非生命自然物質との間の、越えがたい境界の生物地球化学的現れ。
第十章(143‐156節)
生物学は、叡知圏を把握する諸科学の中で、物理学や化学と同等となるべきである。
付録
科学的世界観について
叡知圏に関する若干の話
原注
訳注
ヴラジーミル・ヴェルナツキイの生涯と業績/梶雅範
あとがき/赤松道子
【訳者について】
梶雅範(かじまさのり)
一九五六年、横浜に生まれる。二〇一六年没。一九八八年、東京工業大学大学院理工学研究科博士課程を修了(学術博士)。東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授、同教授を経て、同大学リベラル・アーツ研究教育院教授。専門は科学史。主な著書には、『メンデレーエフの周期律発見』(北海道大学図書刊行会、一九九七年)、『昭和前期の科学思想史』(共著、勁草書房、二〇一一年)、Kaji M., Kragh H., Palló G., (eds.), Early Responses to the Periodic System, Oxford U. P., 2015が、主な訳書には、デイヴィッド・リヴィングストン『科学の地理学──場所が問題になるとき』(共訳、法政大学出版局、二〇一四年)がある。