中村真一郎(1918〜1997)



 小説家。評論家。東京日本橋箱崎町に生まれる。幼くして母を失い、幼少期は静岡県森町の母方の祖父母の家で育った。開成中学校の時に終生の友福永武彦と知り合う。
 一高を経て、1938年(昭和13)東大仏文科入学。在学中に同人誌「山の樹」に加わり、卒業後、卒業論文に選んだネルヴァルの翻訳『火の娘』を刊行。この間に、堀辰雄の知遇を得る。1942年(昭和17)秋、加藤周一、福永武彦とともに文学グループ<マチネ・ポエティク>を結成。戦後、福永、加藤との共著『1946文学的考察』を刊行する一方、戦時下に書き続けた自伝的要素をもった作品『死の影の下に』から始まる、長編5部作(『シオンの娘等』『愛神と死神と』『魂の夜の中を』『長い旅の終り』)を発表し、戦後派作家として脚光をあびる。
 その後も、西欧小説の方法論を取り入れた恋愛小説『回転木馬』『恋の泉』『空中庭園』『雲のゆき来』などを次々に発表して、作家としての地位を確立する。終生の課題とした文学形式への強い関心は、1973年(昭和48)から12年をかけて完成した、ライフワークといえる全体小説に結実し、この『四季』4部作(『四季』『夏』『秋』『冬』)で、日本文学大賞を受賞。
 西欧文学のほか、日本の王朝、江戸期の古典文学にも造詣が深く、評論集『王朝の文学』のほか、江戸漢詩に深く分け入った評伝『頼山陽とその時代』(芸術選奨文部大臣賞)、『蠣崎波響の生涯』(読売文学賞)、遺作となった『木村兼葭堂のサロン』など浩瀚な評伝も、秀作として高い評価を得る。最晩年まで、創作意欲を持ち続け、現役作家として生涯を閉じた。